東京の街から江戸の暮らしに思いを馳せる　江戸から続く東京の地名＜町人地篇＞

銀座【中央区】

伝統と最先端が交差する日本随一の商業街

銀座（ぎんざ）は、東京都中央区にある日本を代表する高級商業エリア。江戸時代には銀貨の鋳造所「銀座役所」が置かれ、銀細工師や銀細工店などの銀関連の産業が盛んだったことが地名の由来です。

現在の銀座１～４丁目一帯は、当時「新両替町」と呼ばれていました。これは、日本銀行のある場所に、かつて『金座（きんざ：江戸幕府直轄の金貨の鋳造所）』があり、その周辺に並ぶ両替店の集まりを「本両替町」と呼んでいたことに対する呼称です。銀座は幕府直轄の貨幣鋳造所であった金座とは異なり、幕府から銀貨の鋳造を許可された御用達商人による請負事業的な性格で、明治2年（1869）、造幣局の設置により廃止されました。銀座が無くなった新両替町は、名称としてのみ銀座が残り、明治2年（1869）に正式名称となりました。

明治5年（1872）2月、銀座から築地一帯を焦土と化す火災が発生、それを機に、欧米諸国に対抗して西洋風の煉瓦街「銀座煉瓦街」が建設され、赤レンガ造りのモダンな町並みに生まれ変わり、モダン都市東京の象徴となりました。大正12年（1923）の関東大震災によって銀座煉瓦街は崩壊するも、復興の際、松坂屋・松屋・三越などの有名デパートが進出するなど、繁華街へと変化してきました。

昭和から平成にかけては、三越、松屋、和光といった老舗百貨店が並び、映画館や劇場、画廊も集まる「文化とファッションの最先端エリア」として発展。今では銀座四丁目交差点を中心に、ハイブランドの旗艦店や洗練された飲食店が集まり、世界中の観光客や買い物客が訪れる国際的な街となっています。

週末の中央通りは歩行者天国になり、銀座らしい優雅な空気を楽しむことができます。さらに、裏通りに入れば老舗の和菓子店や寿司店、クラシックなバーなど、長年愛されてきた銀座の“粋”に出会えるのも魅力です。また近年では、GINZA SIXや東急プラザ銀座など新しい商業施設も加わり、歴史と革新が共存する独特の街並みが形成されています。

伝統、文化、洗練、そして最新トレンド。銀座は時代を超えて常に「東京の顔」であり続ける特別な街です。

蔵前【台東区】

ものづくりと感性が息づく、東京クラフトカルチャーの発信地

東京都台東区の南東部に位置する蔵前（くらまえ）は、隅田川沿いのエリアで、近年“東京のブルックリン”とも称され注目を集めています。商業地・住宅地が混在する地域で、周辺には江戸通りに面して多くの花火問屋やおもちゃ問屋が立ち並ぶ問屋街として有名です。

蔵前という地名は、江戸時代に隅田川に沿って幕府の米蔵（浅草御蔵）があったことに由来し、付近には米商人「札差（ふださし）」の店が建ち並んでいました。札差は武士に代わって御蔵から米の受け取りや運搬・売却を、手数料を取って代行する仕事を本業としていましたが、蔵米を担保として大名や旗本、御家人に金の貸し付けも行い、その利息で莫大な利益を得ていました。

物流の拠点として栄えたこの地は、江戸時代から明治にかけて職人の町、問屋の町として発展しました。戦後は玩具・文具・皮革製品などの問屋街として知られましたが、近年ではその産業の背景を活かし、若いクリエイターや職人が集まるものづくりの街へと再生。古い倉庫や工場跡をリノベーションしたカフェ、アトリエ、ギャラリーが点在し、独自の感性があふれる街並みが広がります。

代表的な施設には、デザイン文具のセレクトショップ「カキモリ」や、革製品ブランドの「アトリエヨシカワ」、地元食材にこだわるカフェ「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」などがあり、観光客だけでなく地元の人にも支持されています。さらに、蔵前は隅田川テラスに近く、東京スカイツリーを望みながらの散歩や川沿いのカフェ巡りも人気。浅草からも徒歩圏内で、下町情緒と現代カルチャーが融合するユニークな体験ができます。

伝統と革新、職人とデザインが交差する蔵前。東京の“ものづくり”の今を感じたいなら、ぜひ訪れるべき注目のエリアです。

勧進大相撲初開催の地

蔵前3丁目にある蔵前神社は、徳川第五代将軍綱吉公が、元禄6年（1693）8月に、江戸城の鬼門厄除の守護神として、山城国（京都府）の石清水八幡宮を勧請（かんじょう）したのが始まりといわれ、宝暦7年（1757）に第一回の勧進大相撲が催された神社です。勧進大相撲とは、寺社・仏像の建立(こんりゅう)・修繕などの費用を捻出するために境内で開催した相撲のことで、木戸銭を取って見物させていました。とくに、横綱谷風や大関雷電などの力士が活躍した時期は相撲人気が高まり、庶民に親しまれていました。勧進大相撲は、蔵前以外にも深川の富岡八幡宮や本所の回向院など、府内各地で行われていましたが、天保4年（1833）以降は、本所回向院が定場所となっていきます。現在、大相撲が開催される両国の国技館は、昭和30年（1955）に御蔵のあった場所の一部に建てられた蔵前国技館が移転したものです。

両国【墨田区】

相撲と江戸文化が息づく、粋な下町の玄関口

両国（りょうごく）は墨田区の町名の一つですが、両国橋周辺一帯を指す地域名でもあり、また、相撲の聖地として知られる歴史深いエリアです。明暦の大火後の万治2年（1659）に、隅田川に橋が架けられ「大橋」と名付けられますが、武蔵国と下総国の間に架けられたことから「両国橋」とも呼ばれ、それが、現在の地名の由来になります。 江戸時代には橋の架設とともに町が発展。江戸の東の玄関口として賑わいを見せました。

それまで、隅田川には江戸城の防衛などの理由から、千住大橋以外は架橋されていませんでしたが、明暦の大火により多数の死者を出したことから、災害時の避難経路にもなるよう両国橋が架けられ、その両岸には火除けのために広小路が設けられました。明暦の大火後は江戸市中各地で広小路が設けられ、そこには床見世（簡易的な店舗、屋台）が並び、多くの人々で賑わいをみせる場所もありました。その中でも、江戸三大広小路の一つに挙げられる両国広小路は、特別大きな賑わいを見せていた場所で、特に、享保年間（1716～1736）に流行した疫病の犠牲者の供養と病魔退散のために、八代将軍徳川吉宗により始められたと言われる両国の花火大会（後の隅田川花火大会）の時期は混雑したようです。 このように、神田、日本橋方面が両国橋東側と直接結ばれたことで、両国橋は、本所・深川の市街地化の促進のために欠かせない大事な橋となりました。

また、両国は相撲だけでなく、江戸文化の中心地でもありました。江戸東京博物館では、江戸から現代までの都市・暮らしの変遷を立体的に体感でき、2025年にはリニューアル再開が予定されています。さらに、吉良邸跡や旧安田庭園など、忠臣蔵や大名庭園の面影も残されています。駅周辺には、ちゃんこ専門店や老舗和菓子店が点在し、街全体が「江戸の味と心意気」を今に伝える舞台となっています。近年はカフェやホステルなども増え、国内外の観光客にとってアクセスの良い下町拠点となっています。

相撲、江戸、食と人情。両国は、東京の伝統を肌で感じられる希少なエリアとして、何度訪れても新しい発見がある街です。

馬喰町【中央区】

現行行政地名は日本橋馬喰町で、隣接する日本橋横山町と共に、江戸時代から続く東京都内屈指の問屋街です。馬喰町の地名の由来は、牛馬の売買・仲介を行う幕府博労頭（ばくろうがしら）高木源兵衛・富田半七が居住していたことによります。

博労（馬喰）とは牛馬を取引する商人のことで、中世以降、牛馬の需要が伸びたために現れた商売でした。江戸時代にも博労たちが営む馬場が各地にありましたが、その中でも馬喰町は最も古い馬場で、多くの博労が集まっていました。当初、「馬喰町」は「博労町」と記され、後に改称されました。

明治の馬喰町は、近世から引き続き問屋街を形成し商人などの出入りは絶えませんでしたが、鉄道の駅がなかったため、多かった宿屋も次第に姿を消したといいます。

昭和・平成時代を通しては、アパレルや繊維関連の問屋が集まるエリアとして機能し、現在もその名残で卸業の店舗や展示会場が点在しています。平日はプロ向けのビジネス街としての顔を見せつつ、近年では若手クリエイターやデザイナーによるリノベーション空間が増え、感度の高い文化スポットへと変貌を遂げつつあります。たとえば、築年数のあるビルを活用したギャラリーやカフェ、個性的なホテル（例：CITAN（シタン） や DDD HOTEL）が点在し、国内外の観光客やアーティストから注目を集めています。おしゃれなベーカリーや雑貨店、セレクトショップも増え、かつての問屋町とは一味違う表情を見せています。また、秋葉原・浅草橋・人形町・東日本橋など、東京の多彩なカルチャーエリアと隣接しており、都心でありながらも人通りの少ない“穴場的な落ち着き”と利便性を兼ね備えているのも魅力です。

古き商いの街から、静かなクリエイティブタウンへ。馬喰町は、東京の新しい「東の顔」として静かに進化を続けています。

※参考資料：大石学著『地名で読む江戸の町』PHP新書

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住建ハウジング編集部

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