本当は7つだけではない!江戸の七不思議 江戸の町には怪談、奇談、摩訶不思議な話がいっぱい

江戸の七不思議

誰しも「七不思議」という言葉を一度は聞いたことがあると思います。
そもそも「七不思議」という言葉は外来語を翻訳して生まれた言葉で、次にあげる古代の巨大建造物に対して使われていました。

  • ① ギザの大ピラミッド
  • ② バビロンの空中庭園
  • ③ エフェソスのアルテミス神殿
  • ④ オリンピアのゼウス像
  • ⑤ ハリカルナッソスのマウソロス霊廟
  • ⑥ ロドス島の巨像
  • ⑦ アレクサンドリアの大灯台
元祖七不思議

日本では昔から怪談や幽霊などの不思議な話を集めて、その地域や場所ごとに「〇〇の七不思議」とすることが流行りました。江戸時代は特に奇談が好まれて、越後七不思議や甲斐国七不思議など人気があり、江戸の七不思議の中では「本所七不思議」が特に有名ですが、その後続々と各地の七不思議が誕生して、今現在まで語り継がれています。
現代においても、学校や病院などの怖い話を集めて「学校の七不思議」や「病院の七不思議」とする話が、怪談ものの一つのジャンルとして人気があります。

江戸時代の七不思議は、江戸の地域や地形に基づいて特色ある話題が語られており、話も7つに限られず、その7つの選定にはいくつか異説が存在します。ただ、どの話も池沼・堀・井戸・橋などの水辺や、異形の樹木・草などの植物、怪音・怪光に関連する現象の三点が共通点として挙げられます。

本所七不思議

七不思議とありますが、消滅してしまった話も含めると12話あるなど、必ずしも七つに固定されてはいません。

置いてけ堀

本所のとある釣り堀で夢中で魚を釣り上げていたところ、気が付くと夕方。もう帰ろうと魚でいっぱいの駕籠を持って行こうとすると、「置いてけ、置いてけ」と声がする。びっくりして逃げたが、気が付くと駕籠の中は空っぽになっていた。一説では、現在の錦糸町辺りという。

置いてけ堀

足洗い屋敷

両国のあたりに「足洗い屋敷」という大きな屋敷があった。夜更けになると天井から血だらけの巨大な足が天井を突き破って降りてきて、「足を洗え~」と騒ぐ。きれいに足を洗ってあげれば、そのまま天井裏へ帰って行って天井も元通りに。しかし、ちゃんと洗ってあげないと、朝まで暴れて屋敷中の天井を踏み抜いてしまう。

足洗屋敷

落葉なき椎

隅田川べりの松浦家上屋敷の椎の木はよく繁っているのに、どんなに風が吹いても落葉したことがないという。椎の木は常緑樹のため落葉樹に比べれば葉が落ちにくということがあるが、人が見るといつもきれいに掃除されているので、このような話が出来たと思われる。また、このことが有名になり、松浦家は「椎の木屋敷」と呼ばれるようになった。

落ち葉なき椎

片葉の葦

留蔵というならず者はお駒という美しい娘を想っていて、ある日、母親の用事で出かけていたお駒に両国駒止橋近くでせまったが相手にされず、怒った留蔵はお駒を斬り殺して堀へ捨ててしまった。それ以降この付近に生える葦は片方しか葉をつけなくなったという。その後留蔵は狂い死んだともいわれています。

片葉の葦

燈無蕎麦(あかりなしそば)

本所南割下水近くに、行灯のついていない無人の蕎麦屋の屋台があった。近づいてみると、お湯が沸いて器が並べてあるが、いくら待っても店主は現れない。客が気を利かせて行灯に明かりを点けても、スッとすぐに消えてしまい、何度点けても同じ。気味が悪くなり帰ると、その後は必ず凶事が起ったという。

これと反対に「消えずの行灯」という話もある。こちらは、同じく誰もいない蕎麦屋の屋台が出てくるが、逆に明かりが点いたままだという。その点いたままの行灯を無理やり消そうとすると、凶事が起きるという。

燈無蕎麦

送り提灯

夜更けに本所出村町(現在の墨田区太平あたり)辺りを提灯を持たずに歩いていると、月が隠れて真っ暗になってしまった。前方に提灯の灯りが見えたので、近づいてみるとスッと消えてしまい、また前方に現れる。何度近づいてみても追いつくことができない。まるで、道案内をしてくれるような提灯であるという。

送り提灯

送り拍子木

本所入江町(現在の墨田区緑あたり)の時の鐘近くで夜回りをしていると、どこからともなく拍子木のカチカチという音が聞こえてくるという。

江戸における時の鐘は、二代将軍秀忠の頃、日本橋本石町三丁目(現在の日本橋室町三丁目)に初めて設けられ、それ以降、浅草、本所、上野、芝、市ヶ谷、目白、四谷のほか17カ所に設けられました。時の鐘には不思議な力が潜んでいると考えられていたようで、このような鐘にまつわる話が生まれたと思われる。

送り拍子木

津軽家の太鼓

火事を知らせる際に町方では半鐘を叩き、大名屋敷では板木を打っていたが、南割下水近くにあった弘前藩津軽家上屋敷だけは何故か太鼓を打つことを許されていた。なぜ津軽藩だけが太鼓を叩くことを幕府に許されたのか誰も理由は分からず、人々は不思議がって、いつしか七不思議のひとつに数えられるようになった。

津軽家の太鼓

狸囃子(馬鹿囃子、馬鹿太鼓)

夜になると、どこからともなくお囃子の太鼓が鳴り響き、遠くで聞こえたと思うと近づいてきたりと、どこから聞こえてくるのか分からず、なんとも不思議な囃子だった。また、お囃子の音を追いかけて行き、ふと気が付くと時間も大分経ち、遠くの野原の真中で寝ていたという。お囃子の正体は不明で、いずれも狸のいたずらとしている。

狸囃子

八丁堀七不思議

八丁堀は町奉行の配下である与力や同心らの組屋敷があり、話の内容は怪談というより、旦那たちゆかりの逸話が数多く残されています。

寺あって墓なし

江戸時代初期、「八丁堀寺院町」と呼ばれるほど八丁堀の武家地外には多くの寺院がありました。しかし、明暦の大火を機に、当時西八丁堀丘崎町にあった玉円寺以外の寺は江戸の中心から離れた地へ移りました。その残った玉円寺は布教を主としていため墓地を持っていませんでした。なお、場所は変わりましたが玉円寺は現在も残っています。

寺あって墓なし

女湯の刀かけ

男湯は朝から混み合うので、八丁堀の人たちが与力・同心に日頃からお世話になっていることのお礼として、通勤前にゆっくりお風呂に入ってもらえるよう、朝は利用者の少ない女湯を開放しました。刀を差してくる彼らのために、朝に限り女湯に刀掛けが用意されました。

女湯の刀掛け

間米の玄関

同心の間米が犯人逮捕の功績を上げた際に怪我をしました。それを知った奉行が褒美をやるから望みを申せと言ったところ、「与力になりたい」と正直に言いづらく、遠回しに「玄関を構えたい」と言ったところ、与力になることなく、玄関だけ設けることが許されました。そのことが恥ずかしく、玄関を表ではなく裏に構えました。

間米の玄関

金で首がつながる

八丁堀の与力・同心は町の人からの頼まれごとも多く、「金を出しさえすれば、切られた首も繋がる」つまり「首が飛ぶような罪も賄賂で手心が加えられる」という噂がありました。

金で首がつながる

奥様あって殿様なし

薄給の与力・同心は、与えられた土地の一部を酒屋や医者など町の人々に貸して生活していたため、武家地でありながら町地として扱われていました。それ故、町の人々から信頼され、親近感を持って「旦那」と呼ばれてました。「奥様」の対語である「殿様」と呼ぶ人はあまりいなかったとのことです。

奥様あって殿様なし

地蔵橋あって地蔵尊なし

いつの間にか地蔵だけが橋の袂から移され、「地蔵」と名の付く橋だけが残ってしまいました。

地蔵橋あって地蔵尊なし

鬼の住居に幽霊が出る

茅場町1~2丁目の間にあった与力の屋敷には高い塀があり、夜はかなり暗い道になっていました。「嘉永日記抄」によると、そこは幽霊横丁と呼ばれ、毎晩首を白く塗った幽霊が出没し、通行人の袖を引っ張ったと言います。実際は幽霊ではなく、夜の世界で働く女性たちだったとのことです。

鬼の住居に幽霊が出る

その他にも、「地獄の中の極楽橋」、「金があっても貧之小路」、「八丁堀にあっても神田」、「佐瀬勇太夫の表裏」などの話があります。

馬喰町七不思議

滝沢馬琴の『兎園小説(とえんしょうせつ)』に「江戸馬喰町に亦七奇異あり」としてあげられています。『兎園小説』とは、滝沢馬琴らが発起人となって、毎月1回、奇事異聞を持ち寄って披露する「兎園会」と称する会の記録です。文中では「七ふしぎ」の項が設けられ、その冒頭で、あやしい事象が重なることを七不思議と言い、その起源は越後であると前置きしています。

卵を産む女

布袋屋という商人の裏借屋に住んでいる男の女房が卵を産んだと騒ぎになった。しかし実際は卵ではなく、卵膜に包まれたまま生まれた胎児であったという。

卵を産む女

水溜桶に落ちた子ども

商人の店の前にある天水桶という水溜桶に小さな子どもが落ちて溺死した。桶の中の水が枯れて半分ほどになっていたところに、落としてしまった人形を取ろうとして誤って落ち、そのまま亡くなってしまった。

水溜桶に落ちた子供

その他にも、「鼠に似た怪しい異国の獣」、「三匹の犬」、「三日月井戸の暗号」、「和睦の後の傷」、「先祖の因縁」などの話があります。

本所七不思議

その他の江戸の七不思議

麻布七不思議

「柳の井戸」、「狸穴の古洞」、「広尾の送り囃子」、「善福寺の逆さ銀杏」、「蟇(がま)池」、「長坂の脚気石」、「一本松」

番町七不思議

「城家の団子婆」、「朽木の幽霊」、「狸囃子」、「足洗い」、「宅間稲荷の霊験」、「番町の番町知らず」、「八つの拍子木」

品川・東海寺七不思議

「片身の鱸(スズキ)」、「鳴かないカエル」、「片なりのイチョウ」、「潮見の石」、「血の出る松」、「火消しの槇」、「千畳づりの蚊帳」

千住の七不思議

「千住大橋と大亀」、「千住大橋と大緋鯉(おおひごい)」、「牧の野の大蛇」、「片葉の葦」、「子福さま」、「金剛寺のそばえんま」、「おいてけ堀」

豊島七不思議

「王子装束狐」、「狐の嫁入り」、「人形流し」、「太古の音」、「大道法師」、「八百比丘尼」、「深んどう」、「罰当たりの杉」 、「でっかん坊橋」など

江戸城七不思議

「北の御部屋の猫」、「夜泣き石」、「血湧きの井戸」、「踊る白狸」、「月見の池」、「願掛け松」、「大奥の雛祭り」、「深夜の馬の蹄」、「行方不明の軍用金」

吉原七不思議

「大門あれど玄関なし」、「河岸あれど舟つかず」、「角町あれど角(すみ)にはあらず」、「茶屋あれど茶は売らず」、「新造にも婆あり」、「若い者にも禿あり」、「遣り手といえども取るばかり」


参考資料:

「来!BuRaRiにほんばし」(特集 江戸の七不思議) 中央区立日本橋図書館館報

「七不思議にせまる⑤ 江戸の町と記録にみる七不思議」 江東区深川江戸資料館

「気になる!八丁堀七不思議」 中央区観光協会特派員ブログ

落語「本所七不思議」の舞台を歩く

怪々日誌「馬喰町:馬喰町七不思議」

現代の七不思議といえばこちら→「東京都心の街の魅力に潜む都市伝説①」