東京・臨海部は本当に危険か?〈地震危険度〉にみる「安全に住める街・住めない街」

今後、30年以内に起こる確率が高い「首都直下地震」。このような危機を前に東京であれば「どこに住まいを構えるべきか」「どのような対策を講じるべきか」関心が高まっています。今後の住まいづくりについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

30年以内に起きるとされる首都直下地震とは

2023年の夏……コロナ禍からやっと解放されてバカンスを楽しんでいた人たち。連日の猛暑に続きやってきた台風に恐怖した人も多かったのではないでしょうか。

一方で、こういった天災を前に「これからの住まいをどうするか」と考える人も多いでしょう。たとえば30年以内に起きるとされる「首都直下地震」。特に高潮等による浸水被害を受けやすい場所である東京湾臨海部は、液状化現象や建物の傾斜も不安視されています。東京都は2022年5月25日に10年ぶりに首都直下地震の新たな被害想定を発表しました。その調査結果と地震に強い街を確認していきましょう。

今後、東京で起きると予想されている地震は次のとおりです。

【首都直下地震】
◆発生確率:約70%
 ・都心南部直下地震
 ・多摩東部直下地震
 ・都心東部直下地震
 ・都心西部直下地震
 ・多摩西部直下地震

◆発生確率:0.5~2%
 ・立川断層帯地震
※いずれもマグニチュード7クラス

【海溝型地震】
◆発生確率:0~6%
 ・大正関東地震
※マグニチュード8クラス
◆発生確率:70~80%
 ・南海トラフ巨大地震
※マグニチュード9クラス

以上の地震の中で、発生確率が高く、都心で震度7の地域がある地震は「都心南部直下地震」です。
東京都防災会議『東京都の新たな被害想定』概要資料より引用


都心南部直下地震の場合では、想定の震源は大田区・品川区あたりですが、地盤が弱い江東区や江戸川区で震度7が予想されています。

被害量を算定した想定被害は次の通りですが、特に被害が大きいのは、都心南部直下地震や多摩東部直下地震になります。死者数を見ると阪神淡路大震災、兵庫県での被害に匹敵するようなレベルであり、避難者数については東京都民の約1/4に迫ります。東日本大震災の発災直後の全国の避難者数は45万人といわれていますので、かなり大きな地震になることが想像できます。避難所の確保や避難後の心身のアフターケアも重要になってくるでしょう。

【想定被害】
◆都心南部直下
 建物被害:約19.4万棟、人的被害(死者数):6,148人、避難者数:約299万人
◆多摩東部直下
 建物被害:約19.4万棟、人的被害(死者数):6,148人、避難者数:約276万人
◆大正関東地震
 建物被害:約5.5万棟 、人的被害(死者数):1,777人、避難者数:約151万人
◆立川断層帯地震
 建物被害:約5.2万棟、人的被害(死者数):1,490人、避難者数:約59万人

なお、南海トラフ地震での震度は区部・多摩・島しょ、いずれの地域でも、東京ではほぼ震度5強以下となり、揺れによる被害はほぼ発生しない見込みと発表されています。

東京都で災害に弱い街・強い街

東京都都市整備局『地震に関する地域危険度測定調査』では、都内の市街化区域の5,192町丁目について、各地域における地震に関する危険性を発表しています。「建物倒壊危険度」「火災危険度」「災害時活動困難係数」より総合的な危険度を求めてランク付けしています。危険度上位20(=地震の危険度が高い街)と下位20(=地震の危険度が低い街)をみていきましょう。
総合危険度からみた住む場所ワースト20(危険度の高い場所)
出所:東京都都市整備局『地震関する地域危険度測定調査』より


総合危険度からみた住む場所ベスト20(危険度の低い場所順)
出所:東京都都市整備局『地震関する地域危険度測定調査』より
※上位12位地点は安全度同率1位


以上を見ると、必ずしも臨海部が危険とはいえません(臨海部は危険度100位にもランクインしていません)。また首都直下型地震とは「東京都、千葉県、埼玉県、茨城県、神奈川県、山梨県を含む南関東地域のいずれか又は複数の地域を震源とする、マグニチュード7クラスの大規模な地震」と定義されているので、どこが震源地でもおかしくありません。常日頃からどこに住んでいても防災についてはしっかりした対策が必要です。

さらに、これから住む場所を探す場合は、地震を始めとする災害のことを考えて、周りの建物の状態や避難できる場所も含めてチェックして、災害に対する強さを確認していくことが重要です。


地震に対する備えで、被害を大幅減へ

しかしながら、下記の図を見ていただくとおわかりのように、10年前の発表に比べると、死者数や全壊棟数は約3割~4割も減少しています。建物の耐震化の推進により大きな効果が上がったことがわかります。

さらに、今後も建築基準法の1981年基準や阪神淡路大震災後の2000年基準に完全に変わっていけば、被害をさらに6割~8割は減らせていけると想定されています。
東京都防災会議『東京都の新たな被害想定』概要資料より引用


住まいの中でできることもあります。10年前の調査からは家具の転倒防止対策の実施が進んだ(57.3%)ことで、死者数の想定結果が約1割減少しました。今後もこの転倒防止策の実施が進むことにより、死者数を大きく減らしていくことが見込まれます。住まいの中でまだ対策を取っていな家庭は、ぜひ実施を検討してみてください。
東京都防災会議『東京都の新たな被害想定』概要資料より引用


さらに出火防止対策の推進も大きな効果が上がっています。地震では火を出さないことも被害を拡大させないことに繋がりますので、「出火を無くす」「初期消火率の向上」などが多くの人命を助けることになります。

東京都防災会議『東京都の新たな被害想定』概要資料より引用



投稿者プロフィール

川淵ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
ファイナンシャルプランナー
(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)
国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学や専門学校での非常勤講師としても勤める。
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川淵ゆかり事務所 代表 ファイナンシャルプランナー (1級ファイナンシャル・プランニング技能士) 国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学や専門学校での非常勤講師としても勤める。