年を重ね自宅での生活に支障が出てきたら、老人ホームへの入居を検討される人もいるでしょう。 最近は、健康な人でも入居できる自立型の老人ホームも増えてきています。 自分がまだ動けるうちに……と、先々を見据えてホームに入居することもあるようです。 しかし、なかにはホームへの入居を後悔の声も聞こえてきます。 Aさんの事例をもとに、老人ホーム選びで後悔しないためのポイントを紹介します。
このマンションでの生活は無理…80歳女性の決断
80歳・女性のAさん。現在は首都圏から少々離れたマンションで一人暮らしをしていますが、年齢が進むにつれて普段の生活に支障がではじめました。日用品の買い出しや家事をすべて一人でこなしていますが、何かと大変になってきたのです。「動ける今のうちは大丈夫だけど、いよいよ動けなくなってしまった時のことを考えておかないと……」
娘にも相談し、Aさんは老人ホームへの入居を決断します。 Aさんの住むマンションは資産価値から見ても申し分なく、「このまま住み続けるよりかは」と、自宅を売却し、ホームへの入居を決心しました。
介護施設にはどんな種類があるのか?
介護施設には介護保険適用の施設と、民間の事業者が運営する老人ホームがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。介護保険適用の施設の特徴
◆特別養護老人ホーム(特養)入居一時金や初期費用がかからず、全体的な費用は安い。入居には要介護3以上の認定が必要
◆老人保健施設
入居一時金や初期費用がかからず、全体的な費用は安い。リハビリ・医療サービスを受ける事ができる。入居期間が制限される(原則3ヵ月)
◆介護医療院
入居一時金や初期費用がかからず全体的な費用は安い。手厚い医療ケアサービスが受けられる。介護医療院は、施設の人員基準から2つの類型を設けている
Ⅰ型:比較的重度の要介護社を対象
Ⅱ型:リハビリを通して、家庭への復帰をサポートする
介護保険を利用した場合の負担額は、介護サービスにかかった費用の1割(所得により2~3割)となります。 また、介護保険施設利用の場合は費用の1割に加え、居住費、食費、日常生活費の負担が必要となります。
具体的にはいくらくらいの費用がかかるのでしょうか。
厚生労働省の「サービスにかかる費用」によると、要介護5の方が特別養護老人ホームを利用した場合の1ヵ月の自己負担の目安は下記の通りです。
民間事業者が運営する「有料老人ホーム」の特徴
◆住宅型有料老人ホーム
ホームのスタッフによる見守り・食事の提供・掃除・洗濯などの生活支援サービスを行う。介護が必要になった時は、外部の介護事業者のサービスを利用。手厚い介護が必要となった場合、退去をしなければならないこともある。
◆介護付き有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームで行われる住居・生活支援サービスに加え、食事・入浴・排泄などの介護サービスを提供。自立している方も入居可能な「混合型」と、要介護1から入居可能な「介護専用型」がある
◆サービス付き高齢者向け住宅
『サ高住』と呼ばれる高齢者のための賃貸住宅。安否確認、生活相談サービスの提供が義務つけられている。介護サービスは提供されない。
◆ケアハウス
食事の提供などの日常生活に必要なサポートを受けられる施設
◆認知症高齢者グループホーム
認知症の高齢者が自身の能力に応じて自立した日常生活を営めるようにすることを目的とした施設
ホームのスタッフによる見守り・食事の提供・掃除・洗濯などの生活支援サービスを行う。介護が必要になった時は、外部の介護事業者のサービスを利用。手厚い介護が必要となった場合、退去をしなければならないこともある。
◆介護付き有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームで行われる住居・生活支援サービスに加え、食事・入浴・排泄などの介護サービスを提供。自立している方も入居可能な「混合型」と、要介護1から入居可能な「介護専用型」がある
◆サービス付き高齢者向け住宅
『サ高住』と呼ばれる高齢者のための賃貸住宅。安否確認、生活相談サービスの提供が義務つけられている。介護サービスは提供されない。
◆ケアハウス
食事の提供などの日常生活に必要なサポートを受けられる施設
◆認知症高齢者グループホーム
認知症の高齢者が自身の能力に応じて自立した日常生活を営めるようにすることを目的とした施設
有料老人ホームは、入居者の希望に合わせて自由に入居先を選べる反面、入居費用が介護保険適用の介護施設と比べると割高になる傾向があります。また月額利用料に加えて、入居時にかかる入居一時金が必要となる施設もあります。
有料老人ホームの月額利用料は、施設の立地や設備によって利用料はさまざまなため、一概には言えませんが、関東圏の場合、おおよそ15万〜25万円がひとつの目安となります。一時金も同様ですが、およそ月額利用料の数ヵ月分を目安としておくと良いでしょう。
老人ホームの入居後にありがちな「3つの違和感」
Aさんは、自宅の売却代金を活用することで介護付き有料老人ホームへの入居を決めました。 住み始めて数ヵ月は老人ホームでの新生活を満喫している様子でしたが、次第に当初の想像とは違った側面も見え始めてきたそうです。老人ホーム、入居前と入居後にどのようなギャップがあるのでしょうか。
①食事が口に合わない
老人ホームでの生活は、基本的には他の入居者との共同生活となります。 入居者の健康状態はさまざまのため、味付けやおかずの品数、メニューのレパートリーなど、中には自分の好みに合わない部分も出てくるかもしれません。 特に、これまで自分好みの食事を続けてきた方にとっては、自分の好みと違った味付けの料理に慣れるまで時間がかかることも考えられます。
【入居前に確認しておきたいポイント】
・献立表を確認する
・入居前に試食をさせてもらう
・献立表を確認する
・入居前に試食をさせてもらう
②入居者と相性が合わない
共同生活の中では、すでにコミュニティができあがっていたり、相性の合わない人がいたりすることもあるでしょう。入居者が、自分らしい生活を送る事ができるような環境が整備されているか、確認をしておきましょう。
【入居前に確認しておきたいポイント】
・施設内で入居者同士の交流イベントがある
・交流を望まず、自分のペースを大事にしたい入居者でも、気楽に生活できる環境がある
(図書スペース等、趣味を楽しめる空間がある)
・施設内で入居者同士の交流イベントがある
・交流を望まず、自分のペースを大事にしたい入居者でも、気楽に生活できる環境がある
(図書スペース等、趣味を楽しめる空間がある)
③入居早々に値上げの要請があった
昨今の物価高により、食費にかかる原材料や光熱費を中心に値上がりが進んでいます。 有料老人ホームについても、物価高の影響もあいまって、月額利用料を値上げする動きが進んでいます。 入居途中で月額利用料が値上げとなり、料金が払えなくなってしまった……とならないよう、資金計画は余裕を持って行うことをお勧めします。
【入居前に確認しておきたいポイント】
・仮に利用料が値上げとなっても、余裕を持った資金計画を立てておく
・仮に利用料が値上げとなっても、余裕を持った資金計画を立てておく
施設選びで失敗…でも戻る家がないとならないように
有料老人ホームだけでなく、介護施設全般に言えることですが、入居したのはいいものの、想像と違った……とならないような施設選びができるようにしましょう。 特に、施設での生活の様子などは実際に足を運んで確認するなど、入居者の感想も聞きながら検討する必要があります。しかし、なかにはどうしても選んだ施設での生活が合わず、長年住んだ元の住まいに戻りたいと考える人もいるでしょう。そんな時に施設を終の棲家にと考え、自宅の売却を早々にすると戻るに戻れなくなります。
Aさんも自宅の売却代金を活用し、介護付き有料老人ホームへの入居を決めたため、入居後に違和感を覚えても戻る自宅はなく、我慢してホームでの生活を続けなければなりません。
――こんなはずではなかったのに
自宅を売却した資金で老人ホームに入居するなら、入居前の確認ポイントをしっかり押さえて検討に検討を重ねることが重要。中途半端な検討ではAさんのような結果になることも多く、後悔をしたところで後の祭りです。また老人ホーム入居後に自宅の売却を検討する場合は、施設での生活の全容が見えてきた半年くらいを経過してからをおすすめします。
投稿者プロフィール
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伊藤FPオフィス 代表
CFP®︎ CERTIFIED FINANCIAL PLANNER
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
宅地建物取引士
証券外務員1種
業界14年目のファイナンシャルプランナー。証券・不動産・保険業界を経験し、人生の3大資金と呼ばれる「教育・住宅・老後」のお金についての相談を得意とする。これまで2,000世帯以上のご相談を担当し、特にライフプラン作成、資産形成、保険の見直し等に強みを持つ。