都内の「豪邸」が直面する相続にまつわる問題【税理士の解説】

息子たちに大変な思いはさせられない…70代男性が「都内の豪邸」を売却したワケ

都内でも豪邸が並ぶ高級住宅街。先祖代々受け継がれてきた住まいも多い街で、昨今、自宅を売却するケースが後を絶たないといいます。なぜなのでしょうか。西口孟志税理士事務所の西口孟志税理士が解説します。

「遺産のほとんどが不動産」の場合に起きがちな「争族問題」

2023年の地価公示では、全国平均が2年連続で上昇し、コロナ前と同等かそれ以上の上昇率となりました。特に東京都の地価は、新型コロナが蔓延している期間を含めても、過去10年間の上昇率が年平均3.5%となっており、地価の上昇傾向はこの先もしばらく続くことが想定されています。

この地価に関して、多くの人が強く意識するのは、住宅を購入するときと相続が発生するタイミングではないでしょうか。今回は東京都23区在住の70代男性、高橋さん(仮名)が相続を見据えて、自宅を売却するケースをシミュレーションしていきます。

高橋さんは、23区内の一軒家で奥様と二人暮らしをされており、二人の息子さん達はそれぞれ家庭を持ち、持ち家を購入しています。預貯金はありましたが、相続が発生する頃には残りも少なくなる見込みで、相続財産のほとんどすべてを自宅の一軒家が占めることが想定されています。

実際に二人の息子さんに相続が発生した場合の相続税を試算してみましょう。

自宅土地は駅から徒歩10分程の好立地で150平米(約45坪)の広さがありました。いわゆる高級住宅街と言われるエリアで路線価も60万円と比較的高めに設定されています。この場合の相続税評価額は、9,000万円(60万円×150平米)です。

仮に奥様が先に亡くなって、相続人が息子さん2名のみだとすると、相続税の基礎控除額は、4,200万円(3,000万円+600万円×2人)となります。すでに息子さん達は自身の持ち家で暮らしているので、小規模宅地等の特例*1も利用することはできません。そうすると、相続税の金額は760万円*2となり、相続人である二人の息子さん達に負担させることになります。

このように相続財産の大部分が不動産である場合、特に自宅のみである場合、相続発生後に揉めてしまい、争族となってしまうケースがよくあります。

たとえば、高橋さんのケースのように相続人が複数となる場合、不動産を共有名義で相続するか、土地を売却してその代金を2分割することが多いです。ただ、一人が実家に思い出があるからとか、今後もっと値上がりするはずだから等の理由で売却に反対すると、原則として勝手に売却することはできません。これが、複数人で一つの不動産を相続したり、所有したりすることのデメリットです。

また、760万円という大金を納税しなくてはいけないという点も忘れてはいけません。相続財産に預貯金などがあれば、納税資金に充てることもできますが、高橋さんのケースのように、預貯金はほとんど無いという時は、土地を売却しない限り、息子さん達がご自身で納税資金を用意する必要があります。

元気なうちに「不動産を処分する」という争族対策

前述のような相続時のトラブルを未然に防ぐためには、あらかじめ家族で相続に関して相談しておくことや、遺言書を作成しておくことも重要ですが、元気なうちに自宅を売却してしまうということも一つの選択肢です。相続税評価額は時価のおよそ8割の金額だと言われていますので、相続税評価額が9,000万円の自宅を売却すれば1億円以上の金額で売却できるかもしれません。

売却後は賃貸暮らしにするなど、生活費は増えるかもしれませんが、相続財産を預貯金で残しておくことは、財産を分けやすさという点では非常にメリットは大きいです。相続する予定の方々の仲が良くないときや疎遠であるときなど、事前に揉めてしまう可能性が高い場合には、検討する価値は大いにあるでしょう。大丈夫だと思っている方でも、実際にお金が関わってくると、意見が合わなくなることはよくあります。

高橋さんは、現在は息子さん達の仲は問題ないとのことでしたが、今後どうなるかも分からないことや、息子たちに税金を負担させるのも嫌い、「息子たちに大変な思いをしてほしくない」と、自宅を売却することを決められました。

ただし、自宅を生前に売却することは、すべてのケースでお勧めできる訳ではありません。一般的に預貯金で相続するより、不動産で相続した方が相続税は安くなることが多いです。特に小規模宅地等の特例を利用できる場合には、その差が大きくなることが予想されます。実際に自宅の売却を考える際には、税理士などの専門家の話も聞いてみることをお勧めします。

日本の高級住宅街に共通する「相続にまつわる大問題」

昨今、田園調布や成城学園などの高級住宅街と呼ばれる街で空き家が増えてきています。そこには様々な理由が存在していますが、そのひとつに今回お話した相続時のトラブルで、売るに売れなくなってしまって空き家のままになっているというものも含まれています。

相続が発生した後に、物件が売れないと相続税が払えないという状態になると、安い価格で売却せざるを得ないということもあり得ます。子供たちに不便をかけてしまわないかと心配な人も、実家を相続するときの相続税が心配な人も、この機会に一度、家族で話してみてはいかがでしょうか。

*1:小規模宅地等の特例
被相続人の居住用の土地を相続した場合に、一定の要件を満たしたときは、その相続税評価額を50%~80%減額できる特例。財産を取得した人が被相続人と同居していること等の要件を満たすことが必要です。
*2:相続税額の計算
9,000万円-4,200万円=4,800万円
4,800万円×20%-200万円=760万円

◆参考:国土交通省 令和5年地価公示:
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000043.html




投稿者プロフィール

西口孟志
西口孟志税理士事務所 税理士

1994年1月30日生まれ。京都府出身。
同志社大学経済学部卒業後、日本電気株式会社に入社。
その後、EY税理士法人等の複数の税理士法人にて、個人事業主から上場企業まで幅広く税務会計の支援に従事。
2022年に京都市にて、西口孟志税理士事務所を開業。
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西口孟志税理士事務所 税理士 1994年1月30日生まれ。京都府出身。 同志社大学経済学部卒業後、日本電気株式会社に入社。 その後、EY税理士法人等の複数の税理士法人にて、個人事業主から上場企業まで幅広く税務会計の支援に従事。 2022年に京都市にて、西口孟志税理士事務所を開業。