相続税対策「ローンを組んで不動産を買いなさい」はホントか?【税理士の解説】

「相続税対策としてローンを組んで不動産を購入しませんか?」。このような謳い文句を耳にしたことはないでしょうか。本当に相続対策なんかになるのか……訝しく思う人も多いでしょう。西口孟志税理士事務所の西口孟志税理士は、「ローンを組んで不動産を購入しても、相続税対策に有利になることは基本的にはない」といいます。ただし「例外はある」といいます。具体的なシミュレーションも交えて解説していきます。

1億円の財産…「預金」で持つか、「不動産」で持つか

相続税の節税を考えるときに、よく使われる手段として不動産の購入があります。さらに、ローンを組んで不動産を購入することで、より効果の高い節税が期待できるといった話を耳にされたこともあるのではないでしょうか。

結論を申し上げますと、「不動産を購入すること」で相続税が安くなるのは本当ですが、「ローンを組むこと」によって相続税対策に有利になることは基本的にはありません。ただし、例外的にローンを組んで不動産を購入した方が有利なケースもあります。その仕組みについて、具体的な金額を用いて説明していきます。

まず、相続税は相続財産の評価額を基に計算されるのですが、この評価額の計算の仕方は、財産の種類によって決められています。預金や現金については、その金額がそのまま評価額とされますが、不動産の場合、購入した金額ではなく、別の評価方法で計算することとされています。細かい計算方法の説明は省きますが、通常、不動産の相続税評価額は購入金額の60%~80%程度になることが多いです。これを生かすことで相続税の対策になるというのが、不動産を購入することの効果です。

極端な例ですが、1億円の預金のみを持っている人が亡くなった場合、1,040万円の相続税が課税されます(図表パターンA。以降、法定相続人2名で基礎控除4,200万円のみとして計算します)。

一方で、1億円で購入した不動産のみを持っている人が亡くなった場合、不動産の評価額を購入金額(市場価格)の70%程度で想定すると、相続財産の評価額は7,000万円(1億円の70%)になり、相続税は370万になります(図表パターンB)。

このように同じ1億円でも預金で保有しているか、不動産で保有しているかという違いだけで、相続税の金額に大きな差が生じます。また、この不動産を賃貸に出すことで評価額をより低く計算することが可能になります。1億円で購入した不動産ということは、市場価値が1億円ということです。市場価値と相続財産の評価額との乖離を利用して、節税対策として活用されています。



ローンを活用して不動産を購入…相続対策になる場合

では次に、ローンを組んで不動産を購入した場合です。亡くなった人がローンを組んでいた場合、そのローンの金額は相続財産の評価額から差し引かれます。つまり、ローンはマイナスの相続財産と考えることができます。

先ほどの例で、1億円の預金のみを持っている人が、5,000万円のローンを組み、自己資金の5,000万円とあわせて1億円の不動産を購入した場合、財産の評価額は、預金の5,000万円と不動産の7,000万円(1億円の70%)からローンの5,000万円を差し引いた金額である7,000万円です。これは1億円の預金で不動産を購入したときと同じ金額になり、もちろん相続税の金額も同じ370万円です(図表パターンC)。

これが、ローンを組むことで相続税対策が有利になることはありませんとお伝えした理由です。それでは、最後にローンを組むことで有利になるケースをみていきます。

相続税対策として、ローンを組むことを考えるべきケースは、ずばり自己資金だけでは購入できない高額な不動産を購入する場合です。

具体例で計算してみます。1億円の預金のみを持っている人が、5,000万円のローンと自己資金1億円をあわせて、1億5,000万円の不動産を購入したとします。このときの相続財産の評価額は、不動産の1億500万円(1億5,000万円の70%)からローンの5,000万円を差し引いた5,500万円です。そして相続税の金額は145万円です(次表パターンD)。

さきほどの具体例で1億円の預金を持っている人が亡くなった場合の相続税は1,040万円、1億円の不動産を持っている人が亡くなった場合の相続税が370万円でした。これと比較してさらに税金が安くなるということがお分かりいただけると思います。

【相続税シミュレーション結果】


今回は、シンプルな例を使って相続税対策としての不動産ローンの活用について確認してきました。不動産ローンを活用すべきかどうかは、人それぞれではありますが、不動産を購入することで、相続税が安くなることは事実です。

ただし、実際に不動産を購入するときは、売買時に手数料や不動産取得税などが発生したり、1億円で購入した不動産が大きな値崩れを起こしたりする可能性もあります。1,000万円の相続税を安くするために、不動産投資で2,000万円の損失を被ってしまっては本末転倒です。あくまで不動産の購入や不動産投資はリスクのあるものであることを認識することが重要です。

大きなお金を動かす際は、様々な視点から検討し、時には金融機関や不動産屋、税理士などの専門家に相談することも有効だと思います。相続税の対策を考えておられる方は、不動産を活用する方法を一度考えてみてはいかがでしょうか。

投稿者プロフィール

西口孟志
西口孟志税理士事務所 税理士

1994年1月30日生まれ。京都府出身。
同志社大学経済学部卒業後、日本電気株式会社に入社。
その後、EY税理士法人等の複数の税理士法人にて、個人事業主から上場企業まで幅広く税務会計の支援に従事。
2022年に京都市にて、西口孟志税理士事務所を開業。
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西口孟志税理士事務所 税理士 1994年1月30日生まれ。京都府出身。 同志社大学経済学部卒業後、日本電気株式会社に入社。 その後、EY税理士法人等の複数の税理士法人にて、個人事業主から上場企業まで幅広く税務会計の支援に従事。 2022年に京都市にて、西口孟志税理士事務所を開業。