年収 2,000 万円で住宅ローン審査撃沈の理由とは?

年収 2,000 万円の営業部長、住宅ローン審査で撃沈「申し上げにくいのですが…」不動産営業マンが指摘した〈まさかの理由〉

「住宅ローンなんていつでも借りられる」と考えてはいないでしょうか。人生最大の借金となる住宅ローンの返済期間は35年。最近では40年から50年と長期にわたるものも登場しています。人生の約半分の期間を費やして返済するのが住宅ローンなのです。この莫大な借金をしようとすると、金融機関は融資していい人物なのかをあらゆる情報を使って精査します。これを「審査」と呼びますが、多くの人が考えている以上に厳しい基準で判断しています。住宅ローンの審査を通過できるのは決して当たり前のことではなく、タイミングを逃せば一生借りられないという最悪の事態も起こりえます。そこで長岡FP事務所代表の長岡理知氏が事例をもとに、金融機関における住宅ローンの審査基準について解説していきます。

年収2,000万円なのになぜ審査「NG」なのか

夫A:49歳、大手企業部長職、年収2,000万円
妻S:48歳、専業主婦
預貯金:1,000万円
現在の住まい:賃貸マンション

夫のAさんは大手メーカーで部長職をしている会社員です。新卒で入社したときから激務をこなしてきました。28歳の時にSさんと結婚し子供2人に恵まれましたが、家庭を顧みることもなく仕事漬けの毎日。そのおかげもあって同期の中では最も昇進スピードが速かったのです。

妻のSさんは国立大学病院の看護師でしたが、38歳の時に1人で家庭を切り盛りするストレスのせいか、うつ病を発症。仕事を辞め、一時期は二ヵ月ほど入院していたこともあります。うつが最も重かった時は言動も支離滅裂で、衝動的な買い物をしたり、知人との約束もすっぽかしたりするなどトラブルも多く、Sさんの実家から母親がやってきて住み込みで面倒を見ていたこともあります。数年前からどうにか症状は落ち着いているものの、現在も看護師の仕事には復帰していません。

結婚当初から夫のAさんはマイホームを購入しようかと何度も迷ったことがあります。妻のためにも賃貸マンションではなく、郊外の落ち着いた広い家を用意してあげたかったのです。しかし、その時の年収ではきっと満足のいく額の融資は受けられないだろうと考えていました。「安く狭い家では買う意味がない」「もう少し昇進して年収が上がってからなら、銀行も喜んで貸すだろうから大きな家を建てられる」と思い、マイホーム計画を延期しつづけたのです。

47歳でいよいよ部長に昇進。年収は2,000万円になりました。そろそろマイホームの計画を実行に移してもいいだろうと思い、大手ハウスメーカーを休みのたびに巡るように。そして決めたのは、資金計画8,800万円という立派な物件です。

住宅営業マンから銀行での仮審査が必要ということで書類を作成。年収欄と勤務先欄を誇らしげにゆっくりと書きまし

営業マンが言います。

「Aさんほどのお立場の方でしたら、銀行は明日にでも満額で承認の回答が来ると思いますよ」

それを聞いたAさんは、まんざらでもない気分でした。しかし一週間が過ぎても回答が来ません。10日ほど過ぎたころ、やっと営業マンから連絡がありました。


「Aさん、申し上げにくいのですが……」

結論から言うと、住宅ローンの審査は「NG」でした。お断りという意味です。

「えっなぜ? 理由の説明はあったのですか」とAさんは聞きますが、銀行は否認理由を本人にも教えないルールであると説明しました。

自動車も持っていないし、クレジットカードも遅れずに支払っている。スマートフォンは一括購入している。消費者金融も出入りしたことはない。なのになぜ……と訝しく思ったAさんは、自分で別の銀行にも審査を出してみました。しかし結果はNG。

ショックを受けていると、住宅営業マンからまた電話がありました。

「あくまでも可能性としてですが……先日に仮審査をした二つの金融機関で、奧様か誰かご家族が事故を起こしたことはないでしょうか?」

Aさんはそれで思い出しました。10年前に妻のSさんがトラブルを起こしていた頃、銀行や消費者金融からお金を借りて返済できなくなり、弁護士を通じて債務整理をしたことがあったのです。その時の債務者に二つの銀行の名前があったかもしれませんが、金融機関がたくさんあったので覚えていません。

「しかし、妻の信用情報は僕には関係ないのではないですか?」とAさんは言います。

「確かに申込者はAさんだけですから、奥様の信用情報を銀行が見ることはできません。しかし債務整理をした履歴は銀行内に永久に残るため、銀行内で確認しているのかもしれません」

その言葉を裏付けるように、妻が借りたことがなかったと思われる金融機関に仮審査を申し込んだところ、無事承認されました。しかし金利や保証料の条件が悪く、融資額も大きく減額。建物の規模を縮小するしかありませんでした。

先のふたつの銀行で審査に落ちた理由は正確には分かりませんが、知人の銀行員やファイナンシャルプランナーに訊いてみると、やはり妻の履歴が残っているせいではないかという意見でした。そして、49歳という年齢もマイナスの影響になっているということも。あと16年しか収入がなく役職定年もあるので、総合的に判断されているのではないかということです。

やはり結婚した当初に購入すべきだったのかと、残念な気持ちになっています。

配偶者が金融ブラックの場合、住宅ローンの審査に影響するか?

原則としては、妻(夫)が金融ブラック(債務整理などの金融事故がある人)の場合でも、夫(妻)の住宅ローンの審査には影響しません。

影響するのは、配偶者が連帯債務者や連帯保証人、あるいはペアローンの場合のみです。これらの申し込み時には、本人の同意のもとで金融機関が信用情報機関に登録された情報を閲覧します。もし連帯債務者、連帯保証人、ペアローンに該当しない場合、同然ながら配偶者の信用情報を閲覧することはしません(できません)。本人の同意が得られないからです。

と、ここまではあくまでも教科書的な知識です。金融機関内部での実務はより複雑になっています。住宅ローンの審査は信用情報機関の内容だけで判断されるのではなく、「申込書・個人信用情報・行内情報」の内容を精査しています。

行内情報とは金融機関が独自に管理している個人信用情報です。信用情報機関に登録された情報を見るためには本人の同意が必要ですが、金融機関が独自に取得し管理している行内情報については、審査担当者が閲覧するために本人の同意は必要ありません。かつて取引を始めた時に、個人情報の取得と利用目的に同意して書類に署名しているからです。

上記の事例のように、配偶者が金融事故を起こした金融機関で住宅ローンの申し込みを行った場合、配偶者の事故履歴を確認される可能性があります。自社での事故履歴が発覚すれば審査にマイナスの影響が出るかもしれません(一方で金融事故を起こしていない金融機関では事故情報は登録されていません。したがって配偶者の自己履歴は知りようがないため審査に悪影響はありません)。

金融機関は審査の精度を上げるために、信用スコアリングシステムや破綻率に影響を及ぼす変数の発見などについて日々研究しています。それぞれの金融機関で審査に独自の手法とノウハウがあるため、金融機関では審査基準を公開しないのです。

「何を見られている?」一筋縄ではいかない住宅ローンの審査

国土交通省住宅局『令和4年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書』によると、1,016の金融機関から審査項目についての回答を得ていることが分かります。「融資を行う際に考慮する項目」を採用している金融機関の数が多い順番に並べてみます。

1位 完済時年齢(98.7%)
2位 健康状態(97.9%)
3位 借入時年齢(97.2%)
4位 担保評価(96.1%)
5位 勤続年数(93.2%)
6位 連帯保証(93.1%)
7位 返済負担率(93.0%)
8位 年収(92.9%)

このようになります。「連帯保証」は保証会社の保証のことであるため、個人信用情報の内容とも言い換えることができます。逆にあまり採用されていない審査項目を並べてみると

20位 性別(21.2%)
19位 雇用先の規模(25.4%)
18位 所有資産(26.2%)
17位 家族構成(29.8%)

となっています(この結果は調査票が選択式であるため、実際にはこれ以外の審査項目も存在すると考えられます)。

このことから金融機関が最も重視しているのは「完済時の年齢」と言えます。多くの住宅ローンは完済時が80歳以下という規定になっています。80歳までにあと何年あるのか、それによって返済負担率はどのくらいになるのかと他の項目と連動していくため、非常に重要な項目です。

80歳まであと25年であれば、同じ金額の融資を受けたとしたら35年返済よりも毎月の返済額は高くなります。年収に占める返済額の割合(返済負担率)が一定以下でなければならないため、融資可能額が低くなってしまう可能性があるのです。

一方で「所有資産」「勤務先の規模」は考慮されないことが多く、「預貯金が多いから融資額を増やす」ということはありません。「勤務先が大企業だから増やす」こともありません。

個人信用情報の内容が最も大切と思い込みがちですが、それ以上に完済時年齢が重要だという点は多くの人のイメージとやや異なるかもしれません。住宅ローンを借りるためには、若い方がいいということです。

人生において住宅ローンの「借り時」はある

仕事を頑張って昇進し、大企業の部長職になったら銀行は喜んでたくさん融資してくれるのではないか? と思った事例のAさんでしたが、勘違いでした。

重要なのは完済時の年齢と、年収、勤続年数です。大手企業で部長職となるのは早くて40代後半、一般的には50代が一般的でしょう。確かに業界での信頼度や知名度は高くなっているかもしれませんが、融資を受けるためには年齢的に不利であるのが現実です。

55歳の部長職よりも、28歳の一般社員の方がはるかに有利なのです。出世競争を勝ち抜いてきたという50代部長のプライドの高さとは裏腹に、住宅ローンの審査は若い人が希望通りに通過しやすいのは皮肉でもあります。

ましてや50代で年収が低かったら、住宅ローンの融資額は希望通りにはいかなくなります。「融資可能額が低すぎる、でも自己資金はない」ということになれば、マイホームは諦めざるをえません。安い中古物件を買おうかと検討するものの、今度は「担保評価」が低く住宅ローンを借りられない……ということもありえます。

住宅は高い買い物なので焦りは厳禁です。しかしいずれマイホームが欲しいのであれば、希望通りの住宅ローンを借りるためにはタイムリミットがあるのだという自覚が必要です。住宅購入は「景気は関係なく、来年は今よりも不利になる」のが鉄則です。焦る必要はありませんが、着実に、現実的な検討を今から重ねていくことをお勧めします。

投稿者プロフィール

長岡理知
長岡FP事務所
代表
2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。
住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。
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ABOUTこの記事をかいた人

長岡FP事務所 代表 2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。 住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。