ここまでできる!待機児童対策(2)

2017年の4月から適用される予定だった新しい定義は来年度に延期され、実態が見えないままとなっている「待機児童問題」。
現状では「待機児童の定義」が各自治体の判断に委ねられているため、カウントされない「隠れ待機児童」が存在し、その数は全国で60,000人近くいるともいわれています。
公表されている待機児童数を鵜呑みにできない中、どのように対策していけばいいのでしょうか。
「ここまでできる!待機児童対策1」では、待機児童に該当するケースを明確にした上で、対策における着目点を紹介しました。
今回は、保育所を取り巻く環境や各自治体の取り組みに焦点をあて、東京都を例に挙げながら、待機児童対策について考えていきたいと思います。

待機児童解消の足掛かりとなる、認可保育所増設に立ちはだかる壁

隠れ待機児童も含めた真の待機児童数ゼロを成し遂げるためには、受け皿となる認可保育所の増設が必要不可欠です。
しかし、認可保育所の設置には、「児童福祉施設の設置及び運営の基準に関する条例」に挙げられる要件を満たさなければなりません。
施設の広さや設備、保育士の数から、防災、衛生に関わることまで、さまざまな基準が設けられているため、まずは一定の条件をクリアできる環境を確保する必要があります。
そのため、東京都のように人口密度の高いエリアでは、保育施設の設置に十分な土地や物件を確保することが難しく、認可保育所の増設がままならないという現状があります。
また、ようやく候補地が見つかっても、近隣住民から「子供の声がうるさい」「送迎の車が増えて事故や渋滞が増える」といった反対の声が上がり、候補地を探し直すことになる場合もあります。
さまざまな障壁を越えて保育所が設置できても、労働に見合わない低賃金の影響で保育士不足となり、事業の縮小や開園延期を余儀なくされるケースもあるようです。

2015年に23区内で最も入園決定率が低かった目黒区では、2016年4月までに定員を415人増員する計画を立てていましたが、物件の乏しさから、実現できたのは予定の半数をやや上回る216人増にとどまりました。
なお、2017年4月から4つの認可保育園(定員の合計は246人)が加わります。
また、待機児童数ワースト1位の世田谷区でも、近隣住民の反対により、開設延期を余儀なくされる施設が出るなど、難航している様子がうかがえます。

待機児童数の軽減策「認証保育所」とは?

都内では土地や物件の不足、近隣住民の反対もあり、待機児童問題解決の糸口ともいえる認可保育所の増設が追い付かない現状があります。
そのため、東京都では独自の基準を設定して、0歳児からの受け入れや駅近くの立地、少人数制の家庭的保育など、利用者のニーズに応えた「認証保育所制度」を導入しています。
なお、23区内で「待機児童数ワースト3・ベスト3」に入った区が設置している認証保育所数は以下のとおりです。

待機児童ワースト3の認可保育所/認証保育所の数(カッコ内は待機児童数)
1位 世田谷区(1,198人)…169園/54園
2位 江戸川区(397人)…93園/28園
3位 板橋区(376人)…108園/20園

待機児童ベスト3の認可保育所/認証保育所の数(カッコ内は待機児童数)
1位 千代田区(0人)…11園/10園
2位 新宿区(58人)…44園/23園
3位 港区(64人)…70園/15園

認証保育所の積極的な利用により、預け先を確保できるというメリットがあります。
しかし、認証保育所の運営は民間企業などが請け負っているため、認可保育所に比べて保育料が高額になるなど、利用者にとってはデメリットに感じてしまう側面もあります。

待機児童解消に向けた各区の取組み

このような背景から、待機児童対策として独自の補助制度を導入する区も増えています。以下に一例を挙げてみます。

世田谷区 認証保育所の利用者に対し、所得に応じて5,000~40,000円の助成金を支給します。
また、認可・認証保育所の利用ができない家庭には、子育て支援ヘルパーの無料派遣や、未就学児の一時預かりを行う「ほっとステイ」、登録者間で支え合う「ファミリーサポート」などでサポートしています。

杉並区 認証保育所の利用者に対し、所得に応じて最高67,000円の補助金を支給し、保育料の負担を軽減しています。
また、区内に3ヵ月以上居住している0~2歳児がいる家庭に「子育て応援券」を無償で配布し、子供の一時保育やベビーシッターの利用、家事などをサポートしています。

このほか、自治体の認定を受けた保育者が、家庭で子供を預かる「家庭的保育」を導入している区もあります。
また、エリアによって偏りの大きい江東区と足立区などでは、遠方の保育所に送迎してくれる「送迎保育ステーション事業」を取り入れています。
認証保育所の助成金も、北区では一律15,000円、荒川区では11,000~13,000円(年齢によって変動)、中野区では上限を62,000円として保育料の差額分を支給するなど、自治体ごとにさまざまな対策を講じています。

各区は、認可保育所の増設にも力を入れており、世田谷区では2017年4月から2019年4月(以降)を目処に、30園以上の開園を予定しています。
2010年4月からの6ヵ年で3,624人の受け入れ拡大を実現し、小学校施設の一部を活用して保育を行うなど、待機児童の解消に積極的に取り組んでいる品川区では、2017年中に認可保育所12園、認証保育所2園の新規開設を予定しています。
ほかにも、目黒区は総合庁舎の駐車場を利用して保育所を設置、渋谷区では「渋谷区幼児教育プログラム」に基づいた幼保一元化施設を設置するなど、区ごとに特色のある取組みも見られます。

各自治体の子育てへの取組みに注目すると、保育施設の充実はもちろん、子育てをしやすい環境づくりにも力を入れている様子がわかります。待機児童数だけに惑わされることなく、どのようなサポートがあるか、待機児童対策として今後どのような取組みを行う予定なのかも考慮して、子育てを楽しめる住みやすい街を探してください。