高齢化社会の現実と老人ホームの重要性
日本は世界でも類を見ない速さで高齢化が進んでおり、東京も例外ではありません。内閣府の「令和7年版高齢社会白書(令和6年10月1日現在)」によると、日本の総人口1億2,380万人に占める65歳以上(3,624万人)の割合(高齢化率)は29.3%に上り、今後もこの傾向は続くと予測されています。2070(令和52)年には38.7%に達して、国民の2.6人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来すると推計されています。

特に東京23区においては急速に高齢化が進み、一人暮らしの高齢者や老老介護の世帯も増加、病気や介護が必要な高齢者も今後ますます増加することが予想されます。こうした事情を受け、介護施設や老人ホームなどのインフラ整備は重要な社会課題へと浮上しています。住み慣れた地域で安心して暮らし続けるための「住まい」の確保は喫緊の課題となっています。
東京都の高齢者人口
東京都における高齢化率は、総人口がピークを迎える令和7(2025)年には23.0%であり、令和17(2035)年には25.4%とおよそ4人に1人が高齢者になると推計されます。

東京都では、持ち家の割合が全国よりも低く、民営の借家の割合が高い状況にあります。特に65歳以上単独世帯では、約5割が借家で、そのうち民営の借家が約3割を占めています。
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このような状況において、老人ホームは高齢者の生活を支える重要な拠点となります。介護が必要になった際のサポートはもちろん、日々の生活における安心感や、地域とのつながりを維持する上でも、その存在意義は増すばかりです。しかし、老人ホームへの入居は、経済的な負担も大きな課題です。特に、入居費用や月々の利用料を捻出するため、所有している自宅を売却せざるを得ないケースも少なくありません。住み慣れた家を離れる寂しさや、手続きの煩雑さといった精神的・物理的な負担も伴うため、事前にしっかりと計画を立てることが重要になります。
令和3年経済センサスから見る東京23区の老人ホーム事情
それでは、実際に東京23区において、老人ホームなど老人福祉施設の整備状況はどのようになっているのでしょうか。5年ごとに実施される「令和3年経済センサス‐活動調査」のデータをもとに、東京23区の老人ホームの事業所数を比較し、それぞれの区の特色を探っていきます。
【東京都23区 老人福祉・介護事業所数ランキング(令和3年経済センサス‐活動調査より)】
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、通所・短期入所介護事業、訪問介護事業、認知症老人グループホーム、有料老人ホーム、その他の老人福祉・介護事業、これら施設数の合計です。
【参考】全国:113,437、東京都:8,990
順位 | 区名 | 老人福祉・ 介護事業所数 |
主な特徴・背景 |
---|---|---|---|
1 | 世田谷区 | 629 | 東京23区で最も人口が多く、高齢者人口も多いため、老人ホームのニーズが高いと考えられます。広大な住宅地が広がり、比較的敷地の確保がしやすい点も影響している可能性があります。 駅近くの商業施設に併設する高齢者住宅・介護サービスも充実しており、住環境との調和が評価されています。 |
2 | 練馬区 | 601 | 緑豊かな住環境が魅力の区です。高齢者向けの施設も充実しており、地域に根差したケアが期待できます。 |
3 | 大田区 | 479 | 世田谷区と同様に人口が多く、高齢化も進んでいます。京浜急行沿線や羽田空港の影響もあり、高齢者の利用しやすい有料老人ホームや特別養護老人ホームが複数立地。交通利便性と施設ネットワークの充実が魅力です。 |
4 | 足立区 | 476 | 広大な面積を持ち、比較的土地の有効活用がしやすいエリアです。再開発も進み、新たな施設建設が進んでいることも考えられます。 |
5 | 杉並区 | 438 | 閑静な住宅街が広がり、高齢者の方々が安心して暮らせる環境が整備されています。 |
6 | 板橋区 | 401 | 都心へのアクセスも良く、住宅地が広がるエリアです。高齢者向けの福祉サービスにも力を入れています。 |
7 | 江戸川区 | 383 | 東部・北部副都心エリアに位置し、都心より地価が手頃なため広域型施設が展開。大規模なサービス付き高齢者住宅と介護付き有料老人ホームが複数設置されています。 比較的閑静な住宅街が多く、子育て世代にも人気ですが、高齢者人口も着実に増加しています。 |
8 | 葛飾区 | 339 | 下町情緒が残る地域で、地域コミュニティが強いのが特徴です。地域に密着した老人ホームが多いと考えられます。 |
9 | 北区 | 237 | 歴史ある住宅地が多く、高齢者が長く住み続ける傾向があります。地域包括ケアシステムの構築にも積極的です。 |
10 | 江東区 | 228 | 豊洲やお台場など再開発が進むエリアと、昔ながらの住宅地が混在しています。新しい施設と既存の施設がバランスよく存在しています。 |
11 | 新宿区 | 209 | 都心の主要拠点でありながら、高齢者向けの住まいも徐々に増えています。多様なニーズに応える施設が求められます。 |
12 | 中野区 | 209 | 住宅地が多く、交通の便も良いことから、高齢者にも暮らしやすいエリアです。 |
13 | 墨田区 | 195 | スカイツリーを擁し、再開発が進む一方で、下町情緒も残る地域です。地域に根差した施設が多く見られます。 |
14 | 品川区 | 184 | オフィス街のイメージが強いですが、住宅地も多く、近年はタワーマンションなどの開発も進んでいます。多様なニーズに対応する施設が見られます。 |
15 | 目黒区 | 172 | 閑静な高級住宅街として知られ、質の高いサービスを提供する老人ホームが多い傾向にあります。 |
16 | 豊島区 | 161 | 池袋というターミナル駅を抱えながらも、住宅地も多く存在します。都心でありながらも高齢者が暮らしやすい環境整備が進められています。 |
17 | 荒川区 | 159 | 昔ながらの住宅地が多く、地域コミュニティが活発です。地域に密着した介護サービスが期待できます。 |
18 | 台東区 | 141 | 浅草など観光地として有名ですが、昔ながらの住宅地も多く、地域に密着したケアが提供されています。 |
19 | 港区 | 138 | 都心の一等地であり、富裕層向けの施設が多い傾向にあります。敷地の確保が難しいことも影響していると考えられます。 |
20 | 渋谷区 | 118 | ファッションや文化の発信地として知られますが、高齢者向けの住まいも整備が進んでいます。都心でありながらも落ち着いた住環境を提供する施設があります。 |
21 | 文京区 | 98 | 文教地区として知られ、閑静な住宅街が広がっています。質の高い医療機関も多く、医療連携の面でも強みがあります。 |
22 | 中央区 | 91 | 都心中の都心であり、オフィス街のイメージが強いですが、近年は住宅地開発も進んでいます。アクセスが良い立地が魅力です。 |
23 | 千代田区 | 35 | 皇居や官公庁が多く、最も人口が少ない区です。老人ホームの数も他区と比較して少なくなっています。 |
参考:令和3年経済センサス‐活動調査より
施設数の多い区の共通点と注目点
- 人口割合の多さ
- 交通の利便性
- 地価と用地の広さ
- 地域支援連携
高齢者が多いため、自然に介護需要も大きい
駅近・幹線沿いに設置され、入居希望者にとってアクセスが良い
都心より手頃な住宅地で、大規模建設・複合施設が可能
地区の自治体や福祉協議会との協力による待機者解消が進む傾向がある
東京23区の福祉サービス

東京23区では、高齢者の皆様が住み慣れた地域で安心して生活できるよう、様々な福祉サービスや助成・援助を行っています。区によって提供されるサービスの内容や対象者、助成額などは異なりますが、共通して見られる主なサービスと、各区の具体的な情報を以下にまとめました。
共通して見られる高齢者福祉サービス・助成・援助の例
介護保険制度に基づき、要介護・要支援認定を受けた方が利用できるサービスです。訪問介護、通所介護(デイサービス)、訪問看護、福祉用具の貸与・購入費助成、住宅改修費助成などがあります。
介護保険では対応しきれない部分や、介護認定を受けていない方も利用できる、区独自のサービスです。
- 家事援助・生活援助サービス:掃除、洗濯、買い物、食事の準備など、日常生活の支援。
- 外出支援・移送サービス:通院や外出時の付き添い、リフト付きハイヤーの利用助成など。
- 緊急通報システム:体調急変時などに緊急通報できる機器の貸与・設置。
- 配食サービス:栄養バランスの取れた食事を自宅に届けるサービス。
- 理美容サービス:理美容師の訪問や、理美容券の交付。
- 寝具乾燥・消毒サービス:寝具の乾燥や消毒。
- 福祉用具の給付・助成:シルバーカー、歩行支援用具、排泄・入浴補助用具などの給付や購入費助成。
- 補聴器購入費助成:難聴の高齢者に対する補聴器購入費の助成。
- 住宅改修費助成:手すりの設置や段差解消など、自宅を改修する際の費用助成。
- 見守り・安否確認:定期的な訪問や電話による安否確認。
- 高齢者活動支援:地域の高齢者活動団体への助成や、いきがい活動の支援。
- 相談窓口:地域包括支援センターなど、高齢者やその家族からの様々な相談に応じる窓口。
以下に、23区それぞれの高齢者福祉に関する助成や援助の具体的な例を挙げますが、詳細や最新の情報は必ず各区の公式ウェブサイトをご覧いただくか、直接窓口にお問い合わせください。
東京23区の高齢者福祉に関する助成・援助(一部抜粋)
千代田区
- 後期高齢者入院時負担軽減:満75歳以上の方の入院中に要した日用品等の費用を、入院日数に応じて助成。(例:年間累計7日~30日で1万円、121日以上で5万円)
中央区
- 在宅介護を支援するための区のサービス:
- 介護保険給付の量を補うサービス(在宅支援入浴サービス、緊急生活支援宿泊サービス、住宅設備改善給付など)
- 介護保険給付の種類を補うサービス(紙おむつ等支給、ふとん乾燥・丸洗い、理美容サービス、リフト付ハイヤー、移送費助成、食事サービス、徘徊高齢者探索システム費用助成、一般寝台の貸与など)
港区
- 高齢者家事援助サービス:家事等が困難な高齢者家庭にホームヘルパーを派遣。
- 高齢者サービス一覧:はり・マッサージサービス、高齢者紙おむつの給付、高齢者おむつ代の助成、理美容サービス、寝具乾燥等消毒など。
新宿区
- 住民等提案型事業助成・高齢者福祉活動基金助成:ボランティア団体等が行う介護予防活動や地域支え合い活動に経費の一部を助成。
文京区
- シルバーお助け隊:70歳以上の高齢者のみ世帯等の「ちょっとした困りごと」(電球交換、家具移動など)を支援(無料)。
- 有償在宅福祉サービス(社会福祉協議会):食事の支度、掃除、買い物などの家事・介護援助。
- 家具転倒防止対策促進事業:家具転倒防止器具設置費用の一部助成。
台東区
- 高齢者自立支援用具(福祉用具)給付:シルバーカー、歩行支援用具、入浴・排泄補助用具などを給付(原則1割自己負担)。
- 在宅での生活を支援するサービス:聞こえの改善機器購入費助成、コミュニケーションロボット購入費用の一部助成、緊急通報システム、紙おむつの支給、移送サービス、家具転倒防止器具の取付など。
墨田区
- 高齢者福祉課による支援:国民年金制度上の老齢基礎年金等を受けられない特定の外国人住民等への福祉給付金、障害者控除対象者認定など。
- 生活困窮者自立支援事業:生活や仕事に困っている方の相談・支援。
- 生活福祉資金貸付事業:不動産を担保とした生活資金の貸付(低所得高齢者世帯向け)。
江東区
- 在宅・訪問サービス:高齢者生活支援ホームヘルパー派遣、ふれあいサービス(有償ボランティアによる家事・介護援助)、かかりつけ歯科医の紹介、高齢者寝具乾燥サービス、高齢者出張調髪サービス、高齢者出張三療サービス、高齢者食事サービス、声かけ訪問、電話訪問、ごみ出しサポートなど。
- 福祉機器・用品:高齢者救急通報システムの設置、高齢者あんしん情報キット配布、高齢者非常ベル・自動消火器の設置など。
品川区
- 高齢者補聴器購入費助成事業:加齢による聴力低下のある高齢者に対し、補聴器購入費の一部を助成(上限72,450円)。
- 高齢者の在宅支援:ホームヘルプサービス(時間延長、回数追加、生活援助、高齢者世帯援助、外出介助)、訪問入浴、住宅設備改修給付など。
目黒区
- 介護保険サービス:訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリ、居宅療養管理指導、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)など。
- 介護保険認定のない方も利用できるサービス:介護予防・生活支援サービス事業、グループホームなど。
大田区
- 老人性白内障治療費助成:特殊眼鏡やコンタクトレンズが必要な高齢者に助成(上限40,000円)。
- 高齢者補聴器購入費助成:満70歳以上の方に助成(上限20,000円)。
- 紙おむつ等の支給:要介護・要支援認定を受けおむつを必要とする方に月5,000円。
- 寝具水洗い・乾燥消毒サービス:在宅ねたきり高齢者対象。
- 高齢者寝台自動車利用助成事業:寝台自動車利用券5,000円補助(年6枚)。
- 高齢者出張理容・美容サービス:ねたきりで店舗に行けない方に出張利用券(年4枚)。
- 高齢者住宅改修費助成:介護認定の有無に関わらず住宅改修費を助成。
世田谷区
- 介護が必要な方へのサービス:訪問口腔ケア、訪問理美容サービス、寝具乾燥サービス、リフト付タクシー補助券など。
- ひとりぐらし・高齢者のみ世帯向けサービス:高齢者安心コール、火災安全システム給付、救急通報システム「愛のペンダント」、福祉電話訪問、会食サービス、入浴券の支給など。
- 住宅改修等のサービス:高齢者向け住宅改修の助成・相談、耐震シェルター・耐震ベッドの設置費用助成、家具転倒防止器具の取り付け支援。
- その他:補聴器購入費助成、はり・きゅう・マッサージサービス、高齢者緊急一時宿泊。
渋谷区
- ホームヘルプサービス:介護予防時間延長・回数追加サービス、生活援助サービス、高齢者世帯援助サービス、外出介助サービス。
- 住宅設備改修給付:要介護・要支援認定を受けた65歳以上の在宅の方で、住宅改修が必要な場合。
中野区
- 高齢者困りごと支援事業:おおむね65歳以上の一人暮らしの高齢者または高齢者のみの世帯に対し、電球交換、荷物移動など30分以内で終了する「ちょっとした困りごと」を無料で支援。
杉並区
- 高齢者いっときお助けサービス:緊急時や身体機能低下により家事援助が必要な方へ派遣。
- ほっと一息、介護者ヘルプ事業:同居で介護する家族にホームヘルパーを派遣(家事代行など)。
豊島区
- 豊島区の公式ウェブサイト等で直接確認が必要です。
北区
- 福祉サービス利用援助事業:判断能力が不十分な高齢者などに対し、福祉サービスの利用援助、日常的金銭管理サービス、書類等の預かりサービスを提供(有償、生活保護受給者は無料)。
荒川区
- 荒川区の公式ウェブサイト等で直接確認が必要です。
板橋区
- 日常生活用具給付:紙おむつ等支給、理(美)容サービス、補聴器購入費の助成。
- 民生委員・児童委員:援助を必要とする方の相談に応じ、区や関係機関へつなぐ。
- おとしよりなんでも相談:健康・介護・介護予防などに関する24時間365日対応の相談窓口。
練馬区
- 高齢者いきいき健康事業(いきいき健康券):区内公衆浴場、理容店・美容店、はり・灸・マッサージ・指圧施術所、スポーツクラブ等で利用できる補助券や無料券を交付。
足立区
- 足立区の公式ウェブサイト等で直接確認が必要です。
葛飾区
- 葛飾区の公式ウェブサイト等で直接確認が必要です。
江戸川区
- 介護保険サービス利用者負担額助成事業:低所得者を対象に、介護保険サービスの利用者負担額の一部(介護給付額の7%)を助成。
【お願い】
上記は一般的な情報であり、サービス内容、対象者、申請方法、助成額などは変更される可能性があります。必ず各区の公式ウェブサイトで最新の情報を確認するか、担当部署(高齢者福祉課、地域包括支援センターなど)に直接お問い合わせください。
【まとめ】高齢者が安心して暮らせる東京の未来へ
今回のデータから、東京23区においては、人口規模の大きい区や、比較的土地の確保がしやすい区で老人ホームの数が多い傾向にあることがわかります。これらの区は、多様な選択肢の中からご自身の状況や希望に合った施設を見つけやすいと言えるでしょう。
しかし高齢化率は引き続き増える見通しで、特に「要介護度の高い高齢者」が安心して生活できる場の確保が急務です。
今後の選択ポイントとしては、
- 交通アクセスの良さ
- 価格と広さのバランス
- 医療・地域支援連携
に注目し、「施設が多く、かつ予防から重度介護まで対応できる体制が整っている区」を選ぶことをおすすめします。
もちろん、老人ホームの数だけが「住みやすさ」を決めるわけではありません。施設の質、提供されるサービスの充実度、地域との連携、そして何よりもそこで暮らす方々が安心して笑顔で過ごせる環境が重要です。
また、老人ホームへの入居を検討する際、持ち家世帯にとって自宅の売却は大きな決断です。しかし、売却によって得られる資金は、質の高い介護サービスや安心して暮らせる環境を確保するための重要な選択肢となります。不動産会社やファイナンシャルプランナーなど、専門家への相談を通じて、ご自身の状況に最適な方法を検討することが大切です。
今後、さらに高齢化が進む東京において、老人ホームは単なる「施設」ではなく、地域社会を支える重要なインフラとしての役割を担うことになります。各区がそれぞれの地域特性を活かしながら、高齢者が自分らしく、そして安心して暮らせる社会の実現に向けて、より一層の取り組みが期待されます。
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