マンション経営に忍び寄る2020年問題

一般メディアなどで「不動産市場の2020年問題」が話題になっています。東京五輪開催の同年以降景気後退が起き、東京の住宅需要が縮小に向かうというものです。そうであれば今後のマンション経営も衰退が予想されます。これは本当なのでしょうか。

不動産市場の2020年問題とは

一般メディアなどで様々な「不動産市場の2020年問題」が指摘されています。それらを要約すると次のような問題になります。

「厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の地域別将来推計人口(2013年3月推計)」によれば、東京都の人口は2015年に約1,335万人のピークに達し、その後は2020年に2015年比0.3%減、2025年に同1.0%減と緩やかに減少幅を広げ、2040年の人口は約1,231万人まで減少する。

したがって、東京都の住宅需要は2015年がピークで、2020年以降は需要が縮小に向かうと予測される。また、総務省統計局発表の「住宅・土地統計調査(2013年)」によれば、全国の空き家が820万戸に上り、総住宅戸数に占める割合が13.6%で過去最高。これらのデータを見ると、新築住宅の必要性は低くなっている。

さらに、東京五輪後は好景気の反動と失業者増加が懸念される。事実、前回(1964年)の東京五輪開催後、日本は不景気に見舞われた。2020年の東京五輪後も同様のことが起きるのではないか。こうした状況を踏まえると、『今の不動産バブルが最後の打ち上げ花火となるのかも知れない』」

こうした論調だけを見ると、2020年問題があたかも存在するかのように思えます。実際はどうなのでしょう。結論から言うと、2020年問題は存在せず、不動産バブルも起きていないようです。

不動産市場の実情と2020年問題の真偽

2020年問題の真偽を探るため、わが国不動産市場の現状を見ておきましょう。

野村総合研究所が不動産市場を多角的に研究したレポート「日本の不動産市場2015」を見ると、首都圏の人口動態に関しては一般メディアなどの論調と同じ見解を示しています。すなわち、2015年をピークに首都圏でも人口と世帯数の減少が始まる。そして、日本の経済成長率も低く、今後の大幅経済成長は見込み難いとも指摘しています。

しかし、「それでもわが国の経済規模は依然として大きく、今の成長率が続けば2020年現在でも名目GDPはインドやブラジルに追い抜かれることはなく、世界3位であり続ける」と予測しています。そして、マクロ経済環境の分析から、都市別に見ると「東京は人口とGDP(国内総生産)の両面で世界最大の都市であり続ける」(2025年の都市別GDP・人口予測)と指摘しています。

レポートでは、このマクロ経済環境の長期トレンドを背景に、2020年の東京五輪開催、円安などが追い風となり住宅、オフィス、商業・物流施設など不動産市場の各部門で2012年以降投資が活発化していると述べています。また、これが海外からの不動産投資を呼び込む要因にもなっているといいます。

そこで住宅市場に目を転じると、2014年末現在、

・日本の全世帯のうち約2割が賃貸マンションに居住しており、その割合は増加傾向にある
 →賃貸マンション居住世帯は1988年の334万世帯(全世帯の約9%)から2013年は996万世帯(同約20%)に増加
・転居世帯は減少傾向にあるが、賃貸マンションに転居する世帯割合は増加している
・賃貸マンションの供給戸数は全住宅供給戸数増加率を上回る水準で推移している
・賃貸住宅需要にマイナス影響を与える持ち家率は、40歳代において低下傾向にある
・主要都市賃貸住宅の長期的空室率は、長らく低下傾向にあった東京23区の空室率が上昇に転じた

などと分析しています。

これらの分析を見ると、首都圏不動産市場のファンメンタルズは長期成長傾向を示しており、2020年問題でこの成長が腰折れする可能性は極めて低いと見られています。

不動産バブルについても、一般メディアなどではどうやらイメージだけが先行しているようです。

例えば、野村総合研究所の金融ビジネス誌「金融ITフォーカス」は2014年10月号の中で、わが国不動産投資の魅力を次のように解説しています。

「一般に不動産バブルとは、不動産価格が経済のファンダメンタルズからかい離することとされる。IMFの『Global Housing Watch』でも不動産バブルの兆候を捉えるために、世界各国の住宅価格の対賃料比率と対収入比率を四半期ごとに更新し、住宅価格が各国経済のファンダメンタルズからかい離していないかチェックしている。

2013年第4四半期においては、多くの国で住宅価格が過大評価されており、収入水準から見れば手頃な価格ではなく、賃料水準から見れば低下の余地があるといえる。しかし、日本は対収入比率でも対賃料比率でも世界で最も過小評価されており、現時点においては経済のファンダメンタルズから見て割安だと考えられる。

2013年第4四半期における日本の住宅価格の対賃料比率もその歴史的な平均値から見て特に低くなっており、不動産投資利回りは世界中で最も魅力的になる。

また、東京の不動産の取引単価は、円安の影響もありロンドンやニューヨークだけではなく、香港やシンガポールよりも安い。つまり、海外投資家にすれば、他都市に比べて少ない資金で、高い利回りを生み出す不動産に投資することができる状況にある。

海外投資家のコメント等で『東京の不動産は安い』とよくいわれるが、これは投資利回りだけではなく、取引単価も併せて指している場合が多い。世界的に見れば日本の不動産は他国に比べて割安であり、取引単価も安い。

国内の不動産市場だけを見て不動産投資の可否を判断するのではなく、海外の不動産市場との比較を行うことで、増加している海外投資家の考え方や日本における不動産投資の本当の魅力を捉えることができるのではないだろうか」(「世界から見た日本の不動産投資の魅力」要約)。

では、海外の不動産投資専門家は東京の不動産市場をどのように見ているのでしょうか。

世界42カ国350拠点で事業展開をしている米国不動産サービス大手「CBRE」のボブ・スレンティックCEOは「東洋経済ONLINE」の取材で、概略次のように語っています。

「東京は世界で最も重要な不動産市場の1つだ。足元では不動産投資先として世界的に見ても特に人気がある。企業業績が好調なのでオフィスビル需要も旺盛だ。だが暫く活況が続いてきたので価格高騰、投資物件の枯渇などネガティブな面も出てきている。

しかし、不動産投資先としてはオーバーヒート(不動産バブル化)していない。『ホット』なだけだ。東京の街を歩いて感じるのは、何より巨大な都市だということ。それから施設や機能がうまく配置されていて、国際的で清潔で美しい。都内各地で再開発プロジェクトが活発に進んでいることも見聞しているが、不動産価値の高い都市だからそれも当然のことだろう」。

一般メディアなどが言いはやしている、東京五輪開催後の景気後退についても、同CEOは次のような鋭い見解を示しています。

「2012年に開催されたロンドン五輪の例では、オリンピックのために整備された新たなインフラはオリンピックが終わった後も残り、それをもとにロンドンの経済成長が続いている。基本的に、日本経済の成長は安定的に続いており、東京五輪はそれのプラス要因だと考えている」。

マンション経営は衰退するのか

一般メディアなどの2020年問題では、マンション経営の衰退も取り沙汰されています。

実際、ネットの投稿サイトにはマンション経営の今後を心配する個人投資家の投稿があふれています。次の投稿はその代表例といってもよいでしょう。

「全国的に少子化が進んでいて、これからはマンションの供給過剰が問題になっていきそうです。今でも新築マンションはほかから入居者を奪う感じで入居者を確保してきました。しかしそれも限界に来ています。学生の減少で学生向けマンション経営が難しくなってきています。学生が減少すれば次は社会人が減少します。さらに不景気で賃料が安いところを求める人が増えたり、引っ越しをする人が減ったりして、新築のメリットもなくなってきています。だから、今からマンション経営を始めるのは難しいと思った方がいいです」

何やら悲壮感すら漂う投稿ですが、本当にマンション経営は厳しい状況に置かれているのでしょうか。

「平成27年度版土地白書」を見ると、「家計の土地・住宅の所有に関する状況と意識」の中で住宅の所有状況を挙げています。

それによると、平成25 年の持ち家は3,217万戸(平成20年比6.1%増)で居住用住宅5,210万戸の61.7%(平成20年61.1%)を占め、賃貸住宅(公営・民営借家と給与住宅の合計)は1,852万戸(平成20年比4.2%増)で全体の35.5%(同平成20年35.8%)を占めています。現状は持ち家優位の状況です。

ところが、「望ましい住宅の形態」については「土地、建物を両方共所有したい」とする持ち家志向は平成8年に88%だったのが平成26年は74.7%となり、13.3ポイントも減少しています。

一方、「賃貸住宅でも構わない」とする賃貸住宅志向は平成8年の6%から平成26年は13.1%へと、7.1ポイントも増加するなど、賃貸住宅志向は年を追って強まる傾向を示しています。この志向は大都市圏ではさらに強く、平成26年の場合14.8%に達しています。このデータを見ると、マンション経営は限界どころか盛況に向かっているようです。

加えて、持ち家を賃貸住宅に建て替える動きも活発化しています。

国土交通省は既存住宅を何戸建て替えたかを示す「住宅着工統計による再建築状況」を毎年発表しています。最新版の平成25年度分によると、建て替えのために解体された既存住宅の総数は約7万9,000戸で、その跡地に約10万3,000戸が新築されています。建て替えにより約2万4,000戸増え、同じ敷地に1.3倍もの住宅が供給された計算になります。

このうち、持ち家の67.6%が同じ持ち家に、28.4%が賃貸住宅に建て替えられています。一方、賃貸住宅は2.6%が持ち家に建て替えられ、91.9%が同じ賃貸住宅に建て替えられています。その結果、建て替えにより持ち家が0.9倍に減ったのに対し賃貸住宅は2.4倍に増えています。

中でも東京都の賃貸住宅への建て替えは盛んで、賃貸住宅の新築戸数約6万2,000戸の23.8%が建て替えにより新築されています。全国平均が12%なので、東京都では賃貸住宅への建て替え需要の高いことが窺えます。

老朽住宅の建て替えによる、良質な賃貸マンションなどの供給増は消費者の賃貸マンション入居ニーズを増幅させ、賃貸マンション市場全体の活性化につながります。賃貸マンション市場ではそうした流れも強まっているようです。自分の経験と一般メディアの情報などで「マンション経営は限界」と判断すると大局を見誤り、チャンスを逆にピンチにしかねないといえそうです。

人口減少時代のマンション経営で重要さ増すエリアマーケティング

国立社会保障・人口問題研究所の推計からも明らかな通り、人口減少は無視できない事実です。

そうはいっても、人口が全国均一的に減少してゆくわけではありません。東京都のように今後も人口増が予測されている地域があれば、地方都市のように減少が予測されている地域に分かれます。

また、一口に東京都といっても東京23区内と23区外、23区内でも山手線の内側と外側、下町と湾岸エリアなどエリア特性によっても人口動態は随分と異なります。

したがって、人口減少というマクロ市場環境を踏まえつつ、自分が投資しようとしているエリア、物件、投資利回り動向などを個別に分析する必要があります。ここにマンション経営におけるエリアマーケティングの重要さがあります。

従来のマンション経営で、エリアマーケティングが注目されたことは皆無といっても過言ではありません。なぜなら必要がなかったからです。

つまり、日本で賃貸マンションへの投資が始まって以来、人口は増加し続けていたので、市場全体の需要増がエリアごとの需給の偏在を吸収し、個別エリアの需給偏在を見えなくしていたのです。そこから、個別の鉄道沿線や駅の立地条件を切り捨て、ただ「駅から徒歩10分」などの全国一律の物件選択基準がまかり通っていたのです。

また、本来の物件供給や賃貸料も基本的には需給によって決まるものです。賃貸需要が多いにもかかわらず物件供給が少なければ賃貸料相場は高止まりし、逆の場合は賃貸料が低値で推移します。

ここでも従来の市場は「物件の絶対数不足」と言う特性により本来の市場原理が働くケースはまれでした。それが人口減少と住宅ストックの増加により本来の市場原理が働く時代に変わってきました。

市場原理が働く中で、特にマンション経営の成否を左右する空室リスクは、賃貸マンションの需要と供給戸数の関係性により発生することが確実になりました。賃貸マンション需要が多いエリアでは空室リスクが低く、需要が少ないエリアは空室リスクが高いことが、各種の調査データで明らかになっています。

したがって、人口減少時代のマンション経営ではエリアマーケティングをいかに上手に活用するかがポイントです。また、そのためには賃貸マンションのマーケティングに見識を持つこと、そして、パートナーとして信頼できるマンション管理会社を選ぶ眼力が求められるでしょう。